会社経営者の事業承継と相続税の特例

会社経営者の事業承継と相続税の特例

会社経営者が亡くなり、後継者が自社の株式を相続すると、その株式にも相続税がかかります。この負担に対応する制度が「法人版事業承継税制」です。取り違えやすいのは、株式の評価額を下げる制度ではなく、相続税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度であることです。本記事では、国税庁の記載にもとづいて制度の骨格を整理します。

法人版事業承継税制とは

法人版事業承継税制は、後継者である相続人等が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の認定を受けている非上場会社の株式等を相続または遺贈により取得した場合に、その非上場株式等に係る相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、後継者の死亡等により、猶予されている相続税の納付が免除される制度です(出典:国税庁 No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)・令和8年4月1日現在法令等)。

正式な名称は「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等」です。根拠は相続税法ではなく租税特別措置法にあります(出典:国税庁 No.4148・根拠法令等は措法70の7の2、70の7の6ほか)。

贈与で株式を引き継ぐ場合の贈与税にも同じ趣旨の制度があります(出典:国税庁 No.4439 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例等)。

自社株以外の財産も含めた相続税の全体像は、基礎控除から税額までの計算の流れを先に押さえておくと、以下の説明が追いやすくなります。

特例措置と一般措置の2つがある

制度には「特例措置」と「一般措置」の2つがあります。特例措置は租税特別措置法第70条の7の6から第70条の7の8まで、一般措置は同法第70条の7の2から第70条の7の4までに定められています。特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間の制度です(出典:国税庁 No.4148)。

主な違いは次のとおりです(出典:国税庁 No.4148の比較表)。

| 項目 | 特例措置 | 一般措置 | |------|------|------| | 事前の計画策定 | 特例承継計画の提出が必要(平成30年4月1日から令和9年9月30日まで) | 不要 | | 適用期限 | 平成30年1月1日から令和9年12月31日までの相続等・贈与 | なし | | 対象となる株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで | | 納税猶予の割合 | 100% | 相続等は80%、贈与は100% | | 承継のパターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 | | 雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要 |

対象となる株数は、どちらの措置も議決権に制限のない株式等に限られます(出典:国税庁 No.4148の注1)。

特例措置には2つの期限がある

特例措置を使うには、期限が2つあります(出典:国税庁 No.4148)。

  • 特例承継計画の提出:令和9年9月30日まで
  • 対象となる相続等・贈与:令和9年12月31日まで

計画の提出期限のほうが先に来ます。一般措置には適用期限も事前の計画策定もありません。

雇用確保要件を満たせなかったとき

一般措置では、承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要です。特例措置ではこの要件が弾力化されていますが、何もしなくてよいわけではありません。雇用確保要件を満たさなかった場合は、要件を満たさなかった理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受ける必要があります。その報告書と確認書の写しは、税務署に出す継続届出書の添付書類とされています(出典:国税庁 No.4148の注2・中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則第20条第3項)。

事業の継続が難しくなったとき

特例措置では、事業の継続が困難な事由が生じた場合、譲渡対価の額等に基づいて再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額が免除されます。一般措置では猶予税額を納付します(出典:国税庁 No.4148の比較表)。

手続きの窓口は2つに分かれる

この制度の適用には、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定等が必要です。認定等に係る申請書・報告書の提出窓口と問い合わせ先は、都道府県の担当課です(出典:国税庁 法人版事業承継税制)。

一方、相続税の申告や、適用を受けた後の継続届出は税務署に対する手続きです。国税庁は、適用要件と提出書類のチェックシート、継続届出の手続きの案内を同じページに掲載しています(出典:国税庁 法人版事業承継税制)。

  • 認定等の申請・報告:都道府県の担当課
  • 相続税の申告・継続届出:税務署

注意点

  • 税額が消える制度ではない:猶予された相続税は、後継者の死亡等により免除されるまでは猶予の状態が続きます(出典:国税庁 No.4148)。
  • 適用を受けた後も手続きが続く:納税猶予の継続届出手続のほか、取りやめ、免除の届出・申請の手続きが定められています(出典:国税庁 法人版事業承継税制)。
  • 要件は「一定の要件」としか要約できない:会社・後継者・先代経営者それぞれの要件は、国税庁のパンフレットとチェックシートで確認します(出典:国税庁 法人版事業承継税制)。本記事では個別の要件を列挙していません。

要件の当てはめと税額の計算は会社ごとに異なるため、税理士に確認してください。事業承継税制を含む相続税の特例については相続税の無料相談はこちらをご利用ください。

よくある質問(FAQ)

Q1: 事業承継税制を使うと、自社株の相続税評価額は下がりますか?

A1: 下がりません。株式の評価額を下げる制度ではなく、その株式に係る相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により免除する制度です(出典:国税庁 No.4148)。

Q2: 特例措置はいつまで使えますか?

A2: 令和9年12月31日までの相続等・贈与が対象です。あわせて、特例承継計画を令和9年9月30日までに提出する必要があります(出典:国税庁 No.4148)。

Q3: 認定の申請はどこに出しますか?

A3: 都道府県の担当課です。相続税の申告は税務署に行います(出典:国税庁 法人版事業承継税制)。

Q4: 根拠となる法律は相続税法ですか?

A4: 租税特別措置法です。特例措置は第70条の7の6から第70条の7の8まで、一般措置は第70条の7の2から第70条の7の4までに定められています(出典:国税庁 No.4148)。

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